アニメとかビジネスの話

趣味でアニメビジネス研究をしている人の雑記帳です

手書きアニメが好き?CGに違和感?つべこべ言わずに亜人を見に行け。

今回取り上げるのは亜人という作品である。

 

亜人(1) (アフタヌーンコミックス)

 

桜井画門氏によって、good!アフタヌーンで2012年7月より連載されているサスペンスアクション漫画である。

2015年6月に映画化が、9月にTVシリーズ化が発表された。早くも11月27日から2週間限定で、劇場版3部作のうちの第1部「亜人-衝動-」が上映を開始している。TVシリーズは2016年1月から放送を予定。

制作は、シドニアの騎士を手がけたポリゴン・ピクチュアズだ。

 

さて、本作もシドニアの騎士と同様に3DCGが多用されている。そのため、手書きアニメに親しんだ人間は違和感を感じてしまうところがあるかもしれない。アレルギー的に視聴を拒む人もいるだろう。

だが、CGだからと言って嫌厭するのではなく、是非とも劇場に足を運んでもらいたいと思っている。なぜならば、今回の亜人アニメ化プロジェクトには、様々な面で注目すべき点が存在しているからだ。

 

TVシリーズの放送が決定しているにもかかわらず、なぜ劇場に足を運ぶべきなのか。今回は、劇場版3部作を見に行くべき理由を述べていこうと思う。

 一つの作品、二人の監督

日本の深夜アニメで劇場版が製作される場合、基本的に

 1.TVシリーズを再編集+一部新規カット

 2.完全新作(続編)

2タイプに分類される。

 

TVシリーズの再編集は、制作コストを抑えつつ新規顧客の開拓もしくは新規カット目当てのコアなファンをターゲットに売り上げを伸ばそうという戦略である。だが、これらは基本的に大きな売り上げを期待することができないため、その後の完全新作の動員を増やすための布石として用いられることが多い。

 

だが、亜人はこのいずれにも分類されない特殊な展開をしている。

なんと、劇場版3部作とTVシリーズが同時進行で作られているのである。しかもこの二つの作品はそれぞれ別の監督が中心となって製作されている。

劇場版は瀬下寛之氏が、TVシリーズは安藤裕章氏が中心となって進められており、同じ原作をそれぞれの監督がどう料理するのかという違いを楽しむことができるようになっているのである。

 

しかしこのような作り方は、一般的な手書きアニメであれば単純に労力が2倍になってしまうためコストがかさんでしまう。ましてや今回のように放映期間にあまり開きがない場合は、ビジネス的にも収益性に問題が生じてしまうだろう。

だが、本作は3DCGの利点をフルに活用して収益性を確保している。劇場版とTVシリーズのモデルを共用することで、モデリングコストを節約しているのだ。この点は前回の記事で取り上げたように、なるべく長期運用することでCGの欠点である初期投資の高さを補う重要な戦略である。

 

視聴を超え、体験の域にまで達した圧巻の音響

TVシリーズと劇場版の監督の違いが楽しめる、というだけでは食指が動かない人も多いだろう。

だが、この作品にはもう一つ、劇場版を観るべき理由が存在している。

それは、アニメ史に残る圧倒的クオリティの音響で作られているという点である。

 

今回亜人の音響を担当しているのは、シドニアの騎士と同様に岩波美和氏と小山恭正氏だ。シドニアの騎士でもハリウッドクオリティの音響で話題となっていたが、亜人の劇場版ではそのハイクオリティな音響を劇場の高級設備で楽しむ事が出来るのである。

 

ハイクオリティな音響により、この作品は新たな次元へと到達する。

表現するならば、視聴というよりも、体験だ。

 

これまでのアニメは、映画館で観たとしてもあくまで視聴の延長に過ぎなかった。だが亜人で私たちは初めて、アニメを体験する事になる。これを一度知ってしまったら、たとえTVシリーズと同じ内容であったとしても劇場で体験したくなってしまうだろう。

それほど本作の音響は、レベルが違うのである。

 

ストーリーに依存しない、劇場に足を運ぶ価値

そしてこの超音響は、作品のストーリーに依存しない、劇場に足を運ぶだけの価値である。顧客は音響を理由に劇場へ足を運ぶ。これは既存のアニメビジネスには無かった新たなビジネスモデルになる可能性があるだろう。

確かに、ハリウッド映画などを中心に3Dや4DXなど、映画を「見る」から「体験する」ことに重点を置いた作品が登場し、一定の評価を得つつある。だが、日本のアニメで体験することに重点を置いた作品はこれまで存在していなかった。それは手書きが主流である以上、アニメはリアリティの追求に限界があったのかもしれない。もしくは、リアリティの追求に限界があると思い込んでいたのか。

どちらにせよ、亜人が劇場体験できる初めてのアニメ作品であることに違いない。そしてそれは、今後ポリゴン・ピクチュアズから発表される作品に大きな競争優位性を与えることになるだろう。つまり、仮にTVシリーズの再編集版であったとしても、音響を餌にして顧客を劇場に呼ぶことができるということである。それは今まで無かった顧客の動機付けであり非常に興味深い。

また、おそらく制作側も少なからずこのことを意識しているはずである。従って、これからポリゴン・ピクチュアズから発表される作品は、もれなく劇場版も制作されるだろう。音響が顧客にどれほど訴求力を持っているのか、今後も注目していきたい。

 

亜人は世界展開を前提に作られている

では、そもそもどうしてこれほどまでに音響にこだわっているのか。高いクオリティの音響は、先述の顧客の動機付け要因であると同時に、世界展開にも必要な要素なのである。

もともと、制作会社のポリゴン・ピクチュアズは以前はアメリカ市場向けの作品を手掛けいた経験がある。そのため、北米での営業力に強みを持っており、日本のコンテンツホルダーとしては早くからSVOD(定額動画配信サービス)大手のNetflixへ作品の供給を行ってきた。事実、Netflixの日本でのサービス開始は2015年9月2日だったが、シドニアの騎士はそれ以前から全世界に向けて配信されており、外国語などの翻訳も積極的になされるなど、積極的な世界展開が見て取れる。

こうした流れを汲んでいる亜人も初めからNetflixを通じた世界展開を前提にしているのだ。その為、音響に力を入れ、世界各国の様々な作品と比較しても遜色のないレベルの作品に仕上げているのである。

 

和製コンテンツは新たなステージに突入した

これまで述べてきたように、亜人は既存のアニメ作品とはあらゆる面で一線を画している。作品のエンターテイメント的にもビジネス的にも、和製コンテンツは”ネクストステージ”に突入したと言ってもいいだろう。

しかし、この高クオリティを味わうことができるのは1210日までの間だけだ。ブルーレイも同時発売になっているが、映画館の最高の設備で楽しむことができるのは今だけ。TVシリーズで見ようなどとは言わず、是非とも劇場に足を運んでもらいたい。

 

もし見に行くのならば、音響設備の整った劇場での視聴をお勧めする。

 

それと、私はポリゴン・ピクチュアズの回し者ではないので悪しからず。

 

 

www.ajin.net

animeanime.jp

 

見に行かないで後悔してからでは遅い。

見れば、わかる。

 

2015年12月3日

 

 

 

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