アニメとかビジネスの話

趣味でアニメビジネス研究をしている人の雑記帳です

アニメーターになりたいなら地方に行こう

アニメーターの労働環境が問題視されて久しいが、それでもアニメーターを志望する人間は後を絶たない。


アニメの市場規模は徐々に増えてきているので、アニメ業界を目指す人間が増えるのも当然の流れだろう。それに、アニメーターの過酷な労働環境を承知の上で志望しているのだから、かつてよりも覚悟のある人材が多くなってきているのかもしれない。

 

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だが、アニメーターになりたいなら、スタジオ選びは慎重に行うべきだ。いくら覚悟を決めていたとしても、今のアニメ業界にはどうしても超えられない現実の壁が高くそびえている。そんな壁にぶち当たり、才能ある若者たちを無意味に消耗して行くのは、彼らの人生に於いても、業界的にもマイナスなはずだ。

 

そこで今回は、アニメーターになりたい方々に向けて、スタジオ選びのアドバイをしたいと思う。
僕はアニメーターではないけれど、少しばかり耳を傾けても損はないはずだ。

 

 

アニメーターになる上で一番の懸念材料は、低い給与水準だろう。アニメーターになりたての時では、満足に食べていくことも難しいと言わざるをえない。

新人アニメーターとして最初に携わるのは、「動画」という作業だ。経験を積んだアニメーターたちが描く「原画」と呼ばれる大まかなパラパラ漫画のようなものの間を埋めるように、補完する絵を描き、なめらかなアニメーションにする作業だ。動画はアニメの基本的な線の描き方を練習しつつ、先輩アニメーターの原画を見て絵の動かし方を学ぶことのできる、とても大切なセクションだ。しかしこの動画の作業は一枚一枚の単価が非常に低いのが現状だ。業界全体の相場として、一枚200円から300円ほどであると言われている。一枚の動画を書くために必要な時間はそのカット(シーン)によって異なるにもかかわらず、原則として単価は一定だ。一枚10分程度で描き終わることもあれば、1時間かかってしまうこともある。がしかし、単価は一様に300円だ。

 

アニメーターの低賃金問題
動画の低賃金は、どのスタジオに入ったとしてもほとんど変わらない。また、人間としての生活ができるようになる「原画」に昇格するには、多くのスタジオが1ヶ月間の動画枚数を基準として設けている。その基準はある程度の期間動画として経験を積んでいかなければ達成できない数値であることが多いので、2年〜3年は動画での生活を強いられることとなる。具体的には、月収10万円前後となるだろう。

 

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正直、月収10万円では健康で文化的な最低限度の生活を送ることすら難しい。特に、アニメスタジオが多く集中している東京都では、どう考えてもまっとうな生活を送ることはできない。家賃でほとんどが消えてしまうし、もし家賃を犠牲にぼろアパートに住んだとしても、手元に残るのは食費込みで5万円以下だ。2016年6月現在の東京都の最低賃金は907円なので、アルバイトをフルタイムで働いたほうが生活水準は高いだろう。事実、東京で働いている新人アニメーターの多くは実家暮らしもしくは仕送りを受けてなんとか生活しているのが現状だ。

 

こうしたアニメーターの待遇改善は業界を挙げて取り組んでいかなければ課題だが、一朝一夕での解決は難しいだろう。動画作業の多くを中国や韓国などの単価の安い海外に外注しているため、それに合わせるように国内の動画単価も低い水準にとどまっているのだ。

 

では、どうしてもアニメーターになりたいのならば、どうしたら良いのだろうか。
答えは単純、東京以外の地方へ行けば良いのだ。

 

地方へ行くメリット
近年、政府でも地方創生を掲げて地方の経済的な活性化の取り組みが行われているが、アニメ業界でも、徐々に地方への移転が多くなってきている。
情報としてはやや古いが、日本動画協会作成の「日本のアニメ制作会社の分布(2011年版)」によると、日本に存在しているアニメ制作会社は合計で419社で、そのうち東京に拠点をおいているのは365社となっている。つまり、54社は東京都以外に立地しているわけだ。これを多いと見るか少ないと見るかは主観に任せるが、少なくとも地方でアニメーターになるチャンスは少なくないと言えるだろう。

 

地方のスタジオに入る一番大きなメリットは、生活費の安さだ。家賃の平均相場で比較した場合、地方では都内の半額で同じ広さの部屋を借りることが可能だ。また、食品なども地方のほうが安い傾向にあり、東京での生活と比べると圧倒的に経済的な優位性が存在している。首都圏以外では多くが車社会のため、交通手段には不便するかもしれないが、東京で生きるか死ぬかの生活をするよりはずっとマシだ。自転車を使えばなんとか生活出来る地域がほとんどだろう。経済的な理由で地方のスタジオを選択すメリットは計り知れない。

 

第二のメリットとして、地方スタジオは新人育成に力を入れているところが多いということである。これは、東京に本社を持ち、地方にも拠点を設けている企業に多く見られるパターンだ。地方で新人教育をまとめて行うことで、人材育成にかけるコストを抑制しているのだ。これは、前述のメリット同様に、地方はあらゆるものが安いので、スタジオの家賃も抑制することができる。自治体などが企業の誘致のために格安でテナントを提供している場合もあり、これを利用して地方スタジオを開いた事例もあるようだ。また、新人アニメーターにとっては同時期に入社した者と肩を並べて教育を受けることになるため、お互いに切磋琢磨しライバルとして成長し合うことが出来る。

 

以上のように、地方のスタジオを選択するメリットは大きい。だが、地方に拠点をおいているスタジオの中には、特色のある取り組みを行っている企業が存在している。その中からいくつか紹介していこう。

 

特色ある地方スタジオ
地方アニメスタジオの雄として、次々とヒット作品を生み出しているスタジオがある。それは、富山県に本社を置いているP.A.WORKSだ。同社は2000年の設立以来、富山県に拠点をおいてアニメ作りに取り組んでおり、同社が手がけた「true tears」や「花咲くいろは」では富山県や石川県を舞台として作品に登場させている。今期は、「クロムクロ」の制作と手がけており、こちらも舞台として黒部ダムが頻繁に登場するなど、地元愛に溢れた企業だ。

 

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P.A.WORKSは新人からのアニメーター育成に力を入れており、1年間の昼食補助(有料)や月1万5千円で住むことのできる寮を完備するなど、収入の少ない新人のうちでも十分に生活できるような環境が整っている。また、同社社屋は2016年に移転されたばかりの新築なので、非常に綺麗な環境で作品作りに取り組むことが可能だ。周辺には自然も多く、東京での閉塞感を感じながらの作品作りよりもずっと快適に技能向上に集中することができる。

 

特色ある地方スタジオはP.A.WORKSだけでは無い。「STEINS;GATE」や「ご注文はうさぎですか?」などの作品を手がけてきたWHITE FOXでは、今年、伊豆高原に新たなスタジオを始動させた。今期は「Re:ゼロから始める異世界生活」などの制作をおこなってる同社にとって初の地方スタジオとなる。かつて学校のセミナーハウスとして利用されていた建物を活用しているらしく、作業スペースと寮が一体となっているのが特長だ。

 

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伊豆高原スタジオの特色も、充実した新人アニメーターの育成である。「アカメが斬る!」のキャラクターデザインを手がけた中村和久さんが常駐し、新人アニメーターへの指導と寮長を兼任している。入社した新人アニメーターは、研修を受けつつ徐々に自社作品の動画を担当してゆくことでスキルアップを目指す方針だ。寮が一体となっているため、新人同士の共同生活を通してお互いに技術を磨くことに集中することが可能である。また、寮費は光熱費込で3万円炊いたお米は会社支給など、P.A.WORKSと同様に支出を抑え作品作りに集中出来る環境が整っている。さらに、こちらも周囲に大自然が広がっているので、アウトドアでリフレッシュすることも出来る。新人アニメーターにとって余計なことを考えないで済む非常に恵まれた環境であると言えるだろう。

 

今回取り上げた以外にも、旭プロダクションの宮城白石スタジオや、GONZO沖縄ゴンゾ(CG)など、東京以外に拠点を持つスタジオは多く存在している。
こうした地方スタジオは、デジタル技術の発達により今後も増加してゆくだろうと予想される。アニメーターを目指すなら、是非とも地方に視野を広げて頂きたい。

 

 

 

 

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